職場のメンタルヘルス問題の全体像
職場のメンタルヘルス対策の具体的な進め方
職場での取り組み紹介:働きやすい職場作りのために
復職支援デイケア

職場のメンタルヘルス問題の全体像

はじめに


厚生労働省の調査によると、8割以上の企業でメンタルヘルス不調者が増加しており、長期休職者がいる企業は全体の6割にも上ると報告されています。
しかし、実際にメンタルヘルス・ケアに取り組んでいる事業所は、日本全体で3割程度しかありません。ちなみに、以上のデータは、主に大規模な企業・事業所を対象にした調査によるものなので、日本企業の95%以上を占める中小企業に限ってみると、メンタルヘルス問題の実態はさらに深刻であることが想像されます。


職場のメンタルヘルス問題のターニング・ポイント

職場のメンタルヘルス問題は、いつからこんなことになってしまったのでしょうか。

近いところでは、リーマン・ショックがありましたが、経済指標や社会指標データを見てみると、1997年前後がターニングポイントになっているようです。この前後は、バブル経済崩壊以降、さらに生活・経済状況の悪化がみられ、倒産件数が増大し、1997年には当時の四大証券会社であった山一証券、1998年には都銀初の破綻となった北海道拓殖銀行の自主廃業などもありました。
このあたりから、精神保健に関する指標も急激な変化を見せています。気分障害の患者数や、メンタルヘルス不調による長期休職者数が急速に増え、そして自殺者数も一気に増えています(図1,2,3)。











バブル経済時代が過ぎ、生活・経済のグローバル化が急速に進み、私たちの職場環境はだいぶ変化しました。それと符丁するように、職場のストレスが増大しました。そればかりか、そもそも安定的に仕事をしていけるのかどうかさえもわからないような時代となり、多くの人が将来への不安を抱えています(図4)。





職場のメンタルヘルス問題への取り組み状況


先の調査結果から、日本企業の多くがメンタルヘルス不調者を抱えながらも、全体の約7割の企業が実際にはメンタルヘルス・ケアに取り組めずにいることが分かりました。一方で、そうした取り組みを強化する必要性について認識している事業所は多く、今後の展開が期待されています(図5)。






  (財団法人産業医学振興財団調査2010年度データに基づき作成)






職場のメンタルヘルス対策の具体的な進め方
 

それでは、実際に、職場でメンタルヘルス対策に取り組もう、あるいは今あるものをより良くしようと思ったとき、どんな対策が有効なのでしょうか。ここでは厚生労働省が示す指針の一部を紹介します。職場の関係者が相互に連携し、以下の4つの取り組みを推進することが効果的であるとされます。



1.メンタルヘルスケア教育研修・情報提供

自分自身のストレスに気づき、予防あるいは軽減するための方法について学ぶための研修を行う。また、困ったときに相談しやすい雰囲気を作り、管理監督者が相談に対応するための技術研修等を行うほか、事業場内外での相談先について情報提供を行う。

2.職場環境の把握と改善

作業環境、作業方法、労働時間、仕事の量と質、職場の人間関係、職場の組織及び人事労務管理体制、職場の文化や風土、心身の疲労の回復のための施設や設備といった環境の整備を行う。

3.メンタルヘルス不調への気づきと対応

メンタルヘルスの不調が続く方に早期に気づき、適切な対応を行うため、労働者、管理監督者、家族等からの相談に対して適切に対応できる体制を整備する。相談等により把握した情報を基に労働者に対して必要な配慮を行うほか、必要に応じて産業医や事業場外の医療機関につなぐことのできるネットワークを整備する。

4.職場復帰における支援、事業場内外の相談体制の整備

メンタルヘルスの不調により休職した労働者がスムーズに職場復帰し、就業を継続できるようにするため、職場復帰支援プログラムを設けることや、事業所内でそれらの体制や規定をきちんと共有し、管理監督者、産業保健スタッフや医療機関等との十分な理解と協力を図りつつ、取り組むための体制を整える。


(参照URL http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/index.html)




職場での取り組み紹介:
   
働きやすい職場作りのために



T.本田技研工業株式会社

車の製造や販売、金融サービス事業、汎用事業ほかを事業内容とし、総従業員数約4万6000人を超える大企業として有名な“Honda”ですが、さまざまな視点で社員のメンタルヘルス対策に取り組んでいるようです。その中のいくつかを紹介します。詳しくは、企業HPをご覧ください(http://www.honda.co.jp/csr/employee/workplace/)。

1.労働時間の調整
1970年に隔週5日制、1972年に完全週5日制を導入するなど、Hondaは業界に先駆けて労働時間短縮に積極的に取り組んでいます。特に水曜日と金曜日は原則として全員定時退社する「ノー残業デー」制度や、有休カットゼロ運動を行い、過重労働対策が行われています。

2.仕事と生活を両立する支援制度
出産や育児・介護を行う従業員のため、仕事と生活の両立を目指した支援が行われています。育児支援では、子が満3歳に達した後の4月末まで育児休職期間を設け、子の小学校就学前までは時間外勤務免除期間を設けています。また、介護支援では、1年以内の介護休職や、勤務時間の調整制度を設けています。

3.復職支援制度
2009年から全社統一の「全社メンタルヘルス推進チーム」を発足し、臨床心理士をメンバーに加え、厚生労働省の指針に沿った復職支援を展開しています。各事業所にもメンタルヘルス推進チームを結成し、互いに連携を取りながら、休職者一人ひとりに職場復帰支援プランを組んでいます。さらには、定期的に事業所の人事・健康管理・安全衛生の担当者を集めて教育研修を行うほか、ケース検討を行ったりと、チームワークを活かした支援体制を整えています。(職場のうつ―復職のための実践ガイド 本人・家族・会社の成功体験2011-2012 AERA Mook AERA LIFE朝日新聞社2011年10月発行を一部参照)


U.トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社


下着メーカーで有名な“Triumph”ですが、自由で明るい社風を生かし、職場環境の整備に向けたユニークな工夫が行われているようです。詳しくは、企業HPをご覧ください(http://www.triumph.com/jp/ja/cw_activity_shokuba.html)。

1.がんばるタイム
しばしばマスコミに取り上げられていますが、毎日2時間(12時30分〜14時30分)、コピー・電話・立ち歩き禁止。部下への指示や上司への確認も禁止というユニークな制度があります。自分の仕事だけに集中するための貴重な時間が設けてられており、「天使のブラ」もこの時間に生まれたそうです。

2.さん呼び運動
社長も部長も、新入社員もみんな「さん」づけにすることで、社員間の垣根を取り払い、上下間のコミュニケーションを円滑に行う工夫がなされています。

3.リフレッシュ休暇
役職者は2週間連続して休暇を取らなければならない。という制度です。オンとオフのメリハリをはっきりつけると同時に、休みの間は部下が業務を代行することで、責任と権限への自覚を促す目的があるそうです。


V.コクヨ株式会社

文具や事務用品の製造・販売、オフィスや公共家具の製造・販売、オフィス空間構築事業などを行う“コクヨ”では、2008年11月20日に、仕事の創造性・生産性を高めることを目指した実験オフィス「エコライブオフィス品川」を開設しました。オフィスには、職場環境の整備に向け、さまざまな独創的な取り組みが盛り込まれています。詳しくは、企業HPをご覧ください(http://www.kokuyo.co.jp/ecology/ecooffice/)。

1.自然を取り入れたライブラリーコート
オフィスには、明るい光が差し込むスペースを利用して植物を植え、周囲をベンチ状にした空間があります。周囲には移動式のデスクを用意し、ベンチに腰掛けながら仕事を行うことができます。植物は、疲労感を和らげる効果があるほか、公園の木陰で読書を楽しむような感覚で、自然に親しみながら仕事ができる点が魅力ですね。また、本棚も用意し、資料を探しに来た社員同士がここで顔を合わせる機会を増やし、社内のコミュニケーションを活性化するという狙いもあるそうです。

2.フリーアドレス制
一部の空間を除き、デスクの割り当てを廃止し、利用目的と利用時間を選択すると、PCが座席をランダムに割り当てるシステムを導入しています。座席数を減らして省スペース化・省エネ化できるだけでなく、いろんな部署の人とコミュニケーションしやすくなるなどのメリットがあるようです。なんだか、学生時代の「席替え」を思い出しますね。



復職支援デイケア

長期休職者において、最も多くみられる精神疾患はうつ病です。休職者のほとんどは、職場における何らかの問題でメンタルヘルス不調を来し、流れとしては、精神科で治療を開始→休職が必要と判断される→長期の療養ということになりますが、長期療養により回復したとしても、復帰を果たすは容易なことではありません。長く休むうちに生活リズムが崩れてしまったり、体力や集中力が衰えてしまったり、大勢の人の中に出て行ったり他人とコミュニケーションをとる機会が極端に減ることで気おくれが生じたりなどなど。休職中の自宅生活と実際の職場との間には相当のギャップが生じてしまいます。また、そもそもうつ病に至った経緯のことを考えると、現場復帰には相当躊躇してしまいます。


最近、休職者がこのような状況を克服し、安全に、確実に職場復帰ができるようにということで、「うつ病復職支援デイケア」を設置して支援をする医療機関や精神科クリニックが増えつつあります。復職支援デイケアの内容は、それぞれの施設により異なり、毎日、デイケア・プログラムを提供しているとこともあれば、週3回くらいのペースで実施しているところもあります。また、半日のところもあれば、終日のところもあります。しかし、おおむね共通して、以下のプログラムが実施されています。

1.「うつ病理解のための心理教育」(要するに、再発を防ぐために自分の病気についてよく知るという学習)
2.「日常生活リズムの再確立」
3.「さまざまな作業やグループ・ワークを通しての業務感覚・能力の回復」
4.「集団認知行動療法」
5.「コミュニケーション技術のトレーニング」
6.「リラグゼーション」


現在、積極的にこのデイケアを実施している施設が集まり研究会が発足したりして、各施設まちまちのプログラムをある程度そろえ、内容を標準化していこうという動きが出てきています。また、精神科デイケアとして一括りにされているこの活動を、うつ病・休職者に対する特別なプログラムとして保険診療上認めてもらおうというアピールもされています。


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