国際自殺予防学会
  アジア・太平洋地区会議

2012年11月28日-12月2日


このほど、インド・チェンナイ(旧マドラス)で行われた、第5回国際自殺予防学会アジア・太平洋地区会議(学会大会)に参加しました。

国際自殺予防学会は、各年の学会総会の他に、この地域会議が隔年で開催されています。これまで、バンコク→シンガポール→香港→ブリスベンで開催され、今回はチェンナイということでした。私は、シンガポール、香港に続き三回目の参加となりましたが、この会議は、アジアの自殺問題やその対策、活動、研究を俯瞰する上で絶好の機会となります。
参加者は当然、アジアからの参加者が多いですが、ヨーロッパからの参加者も少なくありません。また、国際自殺予防学会の分科会ということで、教育講演やシンポジウムのスピーカーとして欧米から何人もの人が参加します。
シンポジウムは、精神医学観点からの自殺予防、自殺企図手段の制御、マイノリティの自殺問題、統合失調症の自殺、群発自殺、自殺とジェンダー、自殺予防の拠点としての救急医療といった題目で組まれ、その他、いくつかのワークショップ(実際にはレクチャー)が実施されました。

会議の性格上、アジアからのレポートがいろいろあります。その中で、興味深い一方で、どうしても受け容れ難いのが、中国からの報告でした。いわく、中国の自殺の背景に、精神疾患の関与は少ないというのです。地域や性別、世代によっては50%以下だということです。そんなことがあるのでしょうか?このウェブサイトの「自殺の問題」にも書きましたが、自殺をされた方は、企図時には精神疾患の強い影響下でその行為を遂げていることが知られていますし、日本で診療をしてきた私の実感でもその通りです。中国では、そうではないと?

この相違について考えてみましょう。一つは、精神科医や精神医学診断の質の相違です。精神科医は、できうる限り多くの情報を患者さん本人ばかりでなく周囲からも収集し、また、本人からも多くの気持ちを引き出すために技術を駆使します。これが十分為されているのかということです。もう一つは、情報を引き出そうにも、精神科や精神疾患、あるいは自殺への偏見が強ければ、どうしても情報が秘匿されてしまうのではないかと思われます。

もちろん、私は世界の国や地域の状況について無知です。自殺の起こる社会情勢や文化は、その国や地域によりまちまちです。しかしそれでも、「精神疾患の関与」というのは、国や地域や時代を超えて普遍的なものであるのではないかと思っています。

もう一つ困るのは、この中国のデータをもって、多くの専門家が、「アジアの自殺は欧米の我々とは違うようだ」といつもコメントすることです。「アジア人は特別」と十派一括りで論じられるのは好ましくないです。

大会では、当然、インド人が多数派ですが、どなたもとてもフレンドリーなのが印象的です。この時期でもチェンナイでは28度から30度くらいの気温でしたが、大変乾燥しているので、日本の汗だらの夏のような不快感はありませんでした。不慣れなインドで体調を崩される人も多いと聞きますが、私も同行した同僚達はいたって元気で、数々の美味な食事を楽しむこともできました。しかし、広大で多くの人口を抱える悠久のインドのことですから、ほとんどインドのことを何もわからぬまま帰国となりました。今、改めて、さまざまな書籍を買い込んでインドの復習をしているところです。






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日本うつ病学会
2013年7月19日-20日


猛暑の中、小倉で開催された日本うつ病学会に参加しました。私には、大学の学生・教職員のメンタルへルス支援に関する一般演題発表に加え、「自殺予防のエビデンスU」というシンポジウムのコーディネートとシンポジストとしての講演、そして自殺予防のエッセンシャルという名前の学会主催研修会の運営という役目があり大忙しでした。

 一般演題の内容については、近々、このウェブサイトの別のところでお知らせしたいと思います。シンポジウムは、前年度の「自殺予防のエビデンス(T)」」に引き続いての開催でした。日本における自殺の激増・深刻化以降、地域において各種の自殺対策が行われていますが、中には「こういうことで果たして自殺を減らすことはできるのだろうか?」というものが少なくありません。限られた人やお金で対策をしなければならない現状を考えると、ある程度以上、その有効性が確認されている取り組み法を厳選し、それを確実に実施し、そしてきちんとモニタリングを行いながら着実に自殺を減らしていくことが大事です。

そこで、このシンポジウムは、「・・の領域では、どのような自殺予防対策が行われていて、その有効性はどれくらいわかっているのか」ということをまず明らかにしておこうという目的で実施されました。昨年度は、「地域介入」、「精神療法」、「薬物療法」、「メディアと自殺」について検討がなされ、今年は、「プライマリ・ケア」、「物質依存症」、「自殺未遂」、「ホット・スポット対策」について検討がなされました。昨年度のシンポジウムの内容が近々日本うつ病学会のホームページに掲載されますが、今年もいずれの講演も興味に深く、例えば、アルコール乱用と自殺の関連が密接であることはよく知られているのに、このことに関して、自殺企図をアウトカム評価として実施された介入研究がほとんどないというお話があり、介入研究の難しさを感じるとともに何らかのブレークスルーが必要だと思われました。

 自殺予防のエッセンシャルについては、私と22人の研究者が開発中の新たな自殺予防研修プログラム、10 Essentialsを用いて実施されました。これは、10のポイントを押さえて、目の前の患者さんやクライエントさんの自殺のリスクを適切に把握し、対応しようというものですが、いずれこのウェブサイトで紹介したいと思います。

 ところで、この学会のメイン・シンポジウムのひとつとして、「新型うつ」が取り上げられ、非常に多くの聴衆が集まりましたが、うーん、これはどうだったのかなぁ。私は、「新型うつ」という言葉を普段使うことはありません。これはもちろん医学的に用いられるものではなく、またこの言葉を使うことは、誰にとってもデ・メリットだと考えます。これについてもどこかで取り上げたいと思います。



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日本自殺予防学会
2013年9月13日-15日

秋田で、第37回日本自殺予防学会が開催されました(稲村茂大会長)。大会テーマは、「多様な自殺予防のあり方を模索する」ということで、このテーマをそのままタイトルにした大会シンポジウムが2日目にあり、秋田県内における民間団体の自殺予防対策を中心に、さまざまな取り組みが紹介されました。
筆者は、このテーマと対を為す「自殺予防の原則」というテーマでシンポジウムの企画をとの大会長からのご指示で、「自殺予防の原則:課題提示、方略開発、そして対策の普及へ」というシンポジウムを考案し、コーディネートしました。「自殺予防の原則」なので「自殺予防の1・2・3次予防」とか、「自殺の危険因子」、「危機介入の基本」のような話でもよかったのでしょうが、日本自殺予防学会に集まってくる方々の多くは、すでに実践活動をしているので、今さらそのような話をしてもということで、視点を変えようということで、good practiceを世の中に普及させていくための段取りについて検討するシンポジウムとしました。主旨としては、“良かれと思ってしている活動も、本当にそれが自殺を低減させることができるのかどうかをきちんと検証しなければならない”、“お金と人材をつぎ込んで対策をしようとするのであれば、そこに科学的な根拠があるのかどうかを確かめなければならない”、“科学的根拠を新たに打ち立てるためにはきちんとした研究プロジェクトが必要”、そして、“研究者は科学的根拠を示せばそれでよいというものではなく、事業化や施策化を目指した実務をも担ちかなければならない”、といった内容です。これらの事柄を、筆者が関わってきた自殺未遂者ケア・モデルの案出、研究プロジェクト化、そして事業化という流れを例に挙げて、シンポジストの方々とフロアの方々とで今後の展望と課題についての検討をしました。
秋田県は、長年、都道府県単位の自殺率としては最悪の状況が続いていますが、それだけに、以前から自殺予防対策に熱心に取り組んでこられた個人や団体が多数あります。毎日、会場には数百人もの参加者があり、一般演題・シンポジウムにおいて活発な討議がなされました。エンターテイメントとして、なまはげ太鼓の実演がありましたが、これも秋田ならではの企画で素晴らしかったです。国際学会では、しばしばこのような企画があって、その地域の雰囲気を感じながらユニバーサルな問題や地域の問題が論じられるものです。
次回の大会は、2014年9月に、北九州市で産業医大・中村純教授のもとで開催される予定です。多くの方がこの学会大会に参加されることを願っています。



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国際自殺予防学会
2013年9月24−28日

ノルウェーの首都オスロで、第27回国際自殺予防学会(正式名は、World Congress of the International Assciation for Suicide Prevention)が開催されました(大会長:Lars Mehlum教授)。北欧の国々のすることは、常に合理的で、よくオーガナイズされていて、非常に整った学会という印象でしたが、非常に多くの方々が参加され、演題数はトータル530で、参加者は60か国から831人ということで、もしかしたら過去最高のスケールだったかもしれません。このうち、日本人参加者は30数人に上り、全参加国中4位くらいの参加者数だったと思います。また、そのほとんどが演題を携えての参加でした。私自身も、シンポジウムで自殺未遂者へのケース・マネジメントの有効性に関する研究(ACTION-J)について、その研究概要と進捗についてプレゼンをしました(大反響でした!)。日本からは、他に自殺予防のための地域介入研究に関するシンポジウム発表があり、NOCOMIT-Jの成果が公表されました。これは、適切に規定された包括的な介入プログラムの有効性を、初めて科学的根拠をもって明らかにした研究であり、その価値を知る聴衆から非常に高い評価を受けました。この研究をもって、ようやく、自殺を低減させるために必要なプログラムと実施上の要諦が明らかになったわけですから、どんどん国内外でその成果が活用されていけばよいと思います。
 たいへん大きな学会規模だったので、すべてを把握することはできませんが、いくつか話題を挙げると。「経済不況が自殺に及ぼす影響」について講演をしたオクスフォード大学・Stuckler教授は、不況下で自殺が必ずしも増えるわけではないこと、そして産業革命下に、「不況によって、国民の福祉が犠牲にされてはならない」と明言した政治家がいたことを紹介し政治・施策の在り方を説いたのは印象的だった。ワークショップにおいて、中国における学生の自殺・自殺関連行動に関するセッションがありましたが、北京のある大学の学生の自殺念慮に関する演題では、これに関する調査の規模と高い自殺念慮の割合が印象的であった一方で、調査をしっ放しで終わってしまっているように見えました。その場で質問もしたのですが、さらに発表者とコンタクトを取ってきいてみると、その大学では介入システムが整えられず、とりあえずは調査により問題の量を明らかにすることが先決だったということでした。
教育講演もシンポジウムもワークショップも、内容的には特にエポックなものや画期的な研究というものは見当たらなかったのですが、大会長による自殺予防施策の進め方に関する講演は、頭の中を整理するのに役に立ちました。
 大会は、ノルウェー王太子妃が名誉パトロネージュとなり、また初日の夜は、オスロ市長がホストとなりレセプション・パーティーがオスロ市庁舎で開催されました。ここは、ノーベル平和賞授与式会場としても知られ、ムンクをはじめとするノルウェー人が可の絢爛たる絵画で内部が埋め尽くされた建物ですが、ジャズ・コンボの演奏、オスロ市長のあいさつ、アルコールと軽食と続き、市庁舎内のガイド・ツアーも行われました。翌日の夜は、これもエドワルド・ムンクの壁画に飾られたオスロ大学のホールで、クラシック音楽のコンサートが開催されました。欧州で開催される国際学会では常にこのようなホスピタリティが見られますが、日本で自殺予防関連の国際学会が開催されるとしたら、日本政府や行政は果たしてどれくらいのことをしてくださるのかな、と思ったりもしました。


オスロ市庁舎におけるレセプション・パーティーの様子



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WHO 世界自殺レポート会議
2013年12月16日・17日

2013年の12月16・17日に、世界保健機関(WHO)が主催する世界自殺レポート会議が東京で開催されました。WHOは、5月に、精神保健行動計画2013−2020を採択しました。このような行動計画の公表は初めての試みでしたが、WHOに加盟する194の国と地域がこれを認証しました。この中に提示された6つの目標のひとつに自殺率の減少が掲げられており、WHOは、さっそく自殺問題と自殺予防対策に関するレポートの作成に着手しました。スイスでの第1回目の会議に続いて、東京がその作成会議の場所が選ばれ、44名の専門官・専門家が全体会議と部会でブレインストーミングとレポートの作成実務に参加した。部会は4つに分かれ、それぞれ、「疫学」、「危険因子と保護因子、介入」、「国家の取り組みと法、実効性」、そして「提案・展望」といった課題に取り組んだ。レポートのとりまとめと公表は、2014年中に行われる予定です。



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