・うつ病
   ・双極性障害



うつ病


§はじめに

学的には、人の気分、感情に障害を来す病気は「気分障害」と言われ、その中にうつ病性障害という病気の分類があり、その中にさまざまな種類のうつ病性障害が分類されています。精神科医が「うつ病」と言う場合は、多くの場合、この中の「大うつ病性障害(通称、大うつ病」を指します。この解説では、大うつ病を扱います。

§どんなひとが病気にかかるの?
よく、「真面目なひとがなりやすい」、「几帳面なひとがなりやすい」と言われますが、必ずしもそこには根拠はなく、誰もがかかり得る病気です。ただ、多くのこころの病気がそうであるように、うつ病も発病のきっかけとなるのは、生活上のさまざまなストレスです。そういう点では、多くの、あるいは大きなストレスをまともに抱えている人がなりやすいということができます。

§病気のひとはどれくらいいるの?
生涯に、100人あたり6−7人の人がうつ病にかかります。地域で、住民の2−3%がうつ病に罹患していると考えられます。

§どんな症状なの?
うつ病の診断基準を簡便化したものを表1にまとめました。



    



「私、この症状もあるし、この症状もあるし…うつ病だったんだ!」と思うかもしれませんが、これらの症状の多くが同時に存在し、しかも、朝から晩までべったり症状が張り付いているという状態の人がうつ病と診断されます。
それから、表1の診断基準にはないのですが、ほとんどの患者さんに現れる重要な症状として、身体のあちらこちらの不調というものがあります(表2)。うつ病は脳の機能に障害を与えますが、この中には自律神経系の不調も含まれます。そのことで、さまざまな身体不調が生じてきます。患者さんは身体不調にばかり目が行くので、しばしば内科や婦人科を受診します。そこでは、医者も身体の病気の専門的チェックにばかり気が向いてしまい、うつ病の存在に気が付かないことがよくあります。

    

§治療法は?
もしも精神科で治療を受けるとどういう治療を受けることになるのかということを、表3にまとめました。


    


§最近問題となっていること
うつ病で治療を受ける患者さんの数が、年々増加しています(平成23年時点)。また、自殺の要因となるこころの病気としても、また、長期休職者の原因疾病としても大きな割合を占めています。
うつ病の患者さんは、身体症状を訴えて精神科や心療内科以外の診療科を訪れることが多いことから、最近、厚生労働省の施策として、全国で「かかりつけ医のうつ病診断・対応技術向上研修」が実施されるようになりました。
最近、「非定型うつ病」とか、「新型うつ病」、「なんちゃってうつ病」などという言葉が氾濫していて、専門医ですら安易にこれらの言葉を使用していますが、これらの言葉の乱用は、いたずらに抑うつ状態の状態を過小評価することにつながります。うつ病は、脳の機能に障害をもたらす、「病気」ですから、精神科医や心療内科医のすべきことは、「疾病診断に基づいて適切に治療を行う」と言うことに尽きます。
なお、うつ病と診断されていた患者さんが、その後、躁状態となってしまったり、あるいはよくよく聞いてみると過去に躁状態を経験していることがわかり、うつ病診断から双極性障害へと診断の変更がなされることがあります。うつ病の治療と双極性障害の治療法は様々に異なるので、医者も患者さんも注意が必要です。




双極性障害


§はじめに

うつ病と同じく、「気分障害」の中に分類される病気で、「双=二つ」という言葉で表されるように、“(軽)躁”と“抑うつ”の二つの気分の極を症状としてもっている病気のことを双極性障害といいます。なお、かつて「躁うつ病」と言われていたものは、現在はこの双極性障害の中に吸収・再分類されるようになりました。ここでは、代表的な双極性障害である、「双極T型障害」と「双極U型障害」について解説します。

§どんなひとが病気にかかるの?
双極性障害にかかる人の約70%が抑うつ状態や大うつ病エピソードから発症する(そしてその後の人生で軽躁病や躁病エピソードを発症する)、あるいは、大うつ病患者の約12.5%が11年以内に双極性障害に移行すると報告されています。したがって、うつ病になりやすくする状況(多大なストレス、あるいはストレス対処能を超えた状態)が双極性障害の発症に関わるといえます。しかし一方で、双生児の方々を対象にした観察研究では、双極性障害はうつ病性障害よりも発症一致率が高いことが報告されており、双極性障害になりやすい素因の存在が示唆されています。また、最近では、何らかの薬物療法がうつ病性障害の患者さんに軽躁病、あるいは躁病エピソードを引き起こす可能性が指摘されています。

§病気のひとはどれくらいいるの?
生涯に、1000人あたり2−4人の人がかかります。地域で、住民の1000人あたり1、2名の方が罹患していると考えられます。

§どんな症状なの?
基本症状は、軽躁病エピソード、躁病エピソード、うつ病エピソードの3つの状態からなります。
うつ病エピソードは、前に解説したうつ病の症状を参照してください。
躁病エピソードは以下の通りです。






表1は、アメリカ精神医学会の診断基準を簡略化したものです。軽躁病エピソードにもこのような診断基準がありますが、軽躁病エピソードは、この躁病エピソードに書かれている症状が経度のものと理解していただいてよいと思います。双極性障害は、うつ病エピソード+躁病エピソードが一人の人に時間経過とともに見られれば双極T型障害とされ、うつ病エピソード+軽躁病エピソードが見られれば双極U型障害と診断されます。
さらに細かいことを言えば、うつ病エピソードと(軽)躁病エピソードが同時に入り混じった、気分は低調なのにたいへん苛立ちが伴うような状態となってしまうかたもあります。 

§治療法は?
治療法は、以前にご紹介したうつ病の治療の流れ(うつ病治療の項目の表3)と同様ですが、ひとつ大きく異なるのは薬物療法です。うつ病では抗うつ薬を使用しますが、双極性障害では、気分安定薬、あるいは抗精神病薬を使用します。
なお、躁病エピソードは、症状が燃え上がると、さまざまな、いわゆる行動の逸脱が引き起こされるために、入院を考慮される場合が少なくありません。 

§最近問題となっていること
うつ病の項目で書きましたが、うつ病と診断されていた患者さんが、その後、(軽)躁病エピソードを発症したり、あるいはすでにその状態を経験している場合があります。特に、軽躁病エピソードは単なる「快活な状態」とみなされ、見落とされる場合が多く、たまたまそのあとに顕著なうつ病エピソードを呈して病院にかかると、双極性障害としてではなく、うつ病としての治療を受けることになってしまいがちす。
もっとも、この軽躁病エピソードの診断は、病歴を尋ねた精神科医の解釈により診断が積極的になされたり、厳密になされたりという幅が生じてしまうことが一部で問題とされています。現在、世界的に使用されているアメリカ精神医学会の精神疾患診断基準が、間もなく改訂の時期を迎えますが、これを機に、現在、双極性障害の診断分類の変更の是非やその内容について議論が続いています。
双極性障害で再発を繰り返す患者さんの中には、躁病エピソードの時が最も調子が良かったと回想したり、あるいは自分の本当の気分のコンディションが分からなくなってしまったと悩むかたもいらっしゃいます。こころの病気は、ただ単に、元通りに「治る」・「治す」ではなく、病気に至った状況を振り返り、自分自身、自分と社会とのつながりについて考え、再発しないような生活や仕事のありかたに取り組むことが重要となります。
双極性障害は症状の変動が大きく、患者さんの心理的負担が大きいこともあり、うつ病と同様に、あるいはそれ以上に自殺の危険性が高いことが知られています。




このページのトップに戻る